ラッキーワイドの造形作家たち4 ★ 清水守正さん
2016年7月4日

【クロッチ作品を創るラッキーワイドの造形作家たち。4】


宿命のライバル、カラスのゴンゾの対決シーン


「獣医か競走馬の厩務員になっていましたね、この仕事をしていなければ」

そう語るのは、入社17 年目のベテラン、清水守正さん。



幼いころ、家ではオウム、犬、猫、馬などを飼っていて、保育園にもヤギやウサギがいた。そんな動物パラダイスで成長し、現在も14羽のインコ、5羽のウサギやミドリガメと共に暮らしている。こんな清水さんが手がけているのは、オイラ、クロッチと宿命のライバル、カラスのゴンゾの対決シーンだ。板塀の屋根の上でのにらみあい。その臨場感に圧倒される。いつも身近に鳥を観察しているからこんな作品が生み出せるのかな。


 「クロッチの顔のおむすび型が造形的におもしろいね!」「べらんめえの言葉使いや、一見、やさぐれた雰囲気も気にいっている」という清水さん。

「一歩引いて、立ち去る」。そんなクロッチの「フーテンの寅さん」的な世界観を表現しようと、なんともなつかしい昭和の街角を出現させた。錆びついたトタン屋根と古びた板塀。このようにふだん見慣れているなんの変哲もないものを、かっこ良く見せようするとどこか作り物感がでてしまうという。そこを「いかに自然に見せるか」が技の見せどころ。木の板に見えるが、実は塀の表面は薄い発砲スチロール板。プラスチック製の透明トタンは金属風に塗装し、さらにサビ加工を施した。刷毛で何度も塗り重ねて埃まみれの風合いを表現する。驚いたことに、清水さんは参考写真など何も見ないで、頭の中のイメージだけで全てを作っているんだ。

 


 でも、オイラの造形はそう簡単ではないという。アニメ風な完成度をつきつめると、原画の水彩画の良さをそこねてしまう。立体制作では感覚的なものがかなり要求されるのだ。


 オイラとゴンゾの制作では、最初に手とヘラを使い、粘土状のパテで小さい模型を作る。その模型の写真を拡大してスチロールのブロックに貼り付け、正面と横からアウトラインをカットする。小さい模型を見ながら感覚だけをたよりに包丁で削っていくこの作業では、経験と慣れがものをいう。ここが最も神経を集中する工程だ。ある程度の形ができるまでは緊張の連続とのこと。でも、それをすぎると「この仕事をしていてよかったなあ」と感じ、その後の仕事がとても楽しくなるという。これから取りかかる着彩では、塗装スプレーと刷毛などでニュアンスをつけながら、クロッチの黒い毛とゴンゾの黒い羽根の色の差別化をしていく。



「とにかく手を動かすことが好き!作りたくて仕方がない」という清水さんは、時々、好きな仕事で遊びながらお金をいただいていると感じる。とはいえ、そこは仕事、納期も含めシビアな制限がある。お客さんに喜んでもらえることを大切にしているが、自分の満足度とお客さんの要求するものが違った時はつらいらしい。


 後輩たちや新人たちには「美術学校で学んだことをそのまま仕事に活かせるのは幸せなこと。だから自分は恵まれていると思ってほしい。しんどいこともあるだろうけれど、できるだけ仕事を続けてほしいですね」。と温かいエールを送る。

さらに、長年、造形に携わってきたひとりの造形職人としてこんなアドバイスを。「デジタルは道具としてはすばらしいけれど、それがすべてではないです。ゼロから手で作ることを忘れない方がいいのかな」。そこでニッコリした清水さん、「停電しても作れるからね」。う~ん、なるほど。


「立体オタク」で粘土や彫塑が得意。「足していく作業」が好きだという清水さんが親しみを感じるのは、粘土、木、石、などの自然素材だ。自然の色に近づくものをどうやって作りだそうか?と日々、思いをめぐらし工夫を重ねている。

「でもね、自然のものにはかなわないです。猫の目やインコの羽根の色の美しさにはね……」。こんな風に言ってもらって、オイラ、ちょいと照れくさかった。

 

 最後に「自分を動物にたとえると?」と尋ねると「セキセイインコかな」と即答した清水さん!理由は「よく動き、よくしゃべる」からだそう。職場に欠かせないムードメーカーの一面をみたよ。




【清水さんの恐竜! ワンフェスに!】

11月のエキシビションでは、クロッチとゴンゾの対決場面の作品の他に、得意の恐竜の模型を出展する。怪獣オタクで特撮オタクだという清水さんは、マニアの祭典、ワンダーフェスティバルに毎年出展している。次回は7月24日(幕張メッセ国際展示場)。