【のら猫クロッチと目があって6 ★ 同行二人】
第6回 田柳優子さん
認定NPO法人 ACE「ピース・インドプロジェクト」担当
「クロッチの心意気が好きです」「野良はひとりで生きられる」といいながらも、
誰かのために何かをせずにはいられない!
今日、世界の子どもの9人にひとり、1億6800万人が児童労働をしている、といわれる。ACE (Action against Child Exploitation)(意味:子どもの搾取に反対する行動)は、インドとガーナで危険な労働をしている子どもたちを守りながら、日本で、児童労働の問題を伝える啓発活動や解決のための活動をしているNGOだ。今年2月に、ACEが運営するインドの職業訓練センターで学ぶ女の子たちに、オイラの服を作ってくれるよう計らってくれた田柳優子さん。8月には、完成した50着の服をインドから持ち帰ってくれた。
子どもたちの表情が変わっていく
「この活動をやっていてよかった!」。と感じるのは、子どもたちの表情の変化を見た時だと語る田柳さん。朝から晩まで畑で働きづめ、土日も休めず、ほぼ1年中働く子どもたち。表情は暗く、笑うことはほとんどない。しかも、子どもたちは、頭痛や腹痛、腰痛などなにかしら健康の問題を抱えている。コットン畑の腰をかがめる作業で腰痛に、有害な農薬のせいで不調になり、皮膚病にもなる。農薬がついた手でお弁当を食べて亡くなった子もいる。
現地では、「児童労働がいけない」と思わないおとなが多い。農村では子どもは「稼業の働き手」とみなされているのだ。村の学校の先生は、学校にこない子どもたちの面倒まではみない。ACEでは、子どもたちを学校に通わせるために、先生と村人の協力を得ようと何度も地道に働きかけていく。そして、ACEが村で実施する「ピース・インド プロジェクト」で運営する補習学校「ブリッジスクール※」の様子を親たちに実際に見てもらう。働いている時には、子ども同士でおしゃべりもせず無気力だったのに、通いはじめると、表情が生き生きと輝き、髪をとかし、歯も磨くようになる。
「それなら自分の子も学校に行かせてみるか」。と、そこでやっと親の意識が変わる。活動の仲間になってくれた村人は、家庭訪問や説得にも協力してくれるようになる。「貧しいから学校にはいかせられない」とはいうものの、実際には通わせられる家庭もある。子どもの稼ぎが必要なほど非常に困窮した親へは収入向上支援をするが、お金ではなく物で融資をする。ヤギや羊を有償貸与し、飼い方を教え、数を増やして市場で売る。ある程度の利益がでるようになったら、家畜の代金は無利子で返してもらう。
オイラの服をつくってくれた女の子たちとは?
今回、オイラの服を作ってくれた職業訓練センターで働く女の子たちも、9ヶ月後にミシンを有償で貸与されるんだって。誰を支援するか決めるには、本当に返済する意思や能力があるのか見極めなければならない。一番大切なのは、その親が子どもを学校や職業訓練センターに通わせる意志が本当にあるのかを判断することだという。
※ブリッジスクールとは、働いていたために学校にいけなかった子どもが基礎学力を身につけ、公立学校へ就学できるよう支援するための補習学校
活動への参加者や仲間が増えた時はとてもうれしい
「ACEは小さな団体なので、現地で救える子どもの数はとても少ないんです」。膨大な児童労働者数を減らすためには、途上国だけではなく、先進国の人々の意識を変えていく必要があるという。
「児童労働」といわれてもピンとこない日本人が、自分に身近な商品とのつながりから実感できるように、ACEでは、綿製品の原料のコットン、チョコレートの原料のカカオ、のそれぞれの生産地、インドとガーナを支援地域に選び、活動を続けている。
「児童労働の現状を伝えた後で、活動への参加者や新しい仲間が増えた時はとてもうれしいです」と語る田柳さん。大学2年の春休み、「日本と全く違う国で、子どもにかかわることをしよう」と思い立ち、2ヶ月間、インドでストリートチルドレンを保護しているNGOの手伝いをした。ところが、「子どもたちのために何かしてあげたい!」とでかけていったのに、英語もヒンディー語も通じず、何もわからず何もできなかったという。その時の悔しさとはがゆさは、田柳さんにとって初めてのノラ体験となり、人生の大きな分岐点ともなった。帰国後、「今度は日本語がわかるスタッフと共にインドに行きたい」と、同じ年の夏休みには、ACE主催の「児童労働の観点でのスタディツアー」に参加したというのだから、そのタフさに驚かされる。
自分を動物に例えるなら
自分を動物に例えると?「犬っぽい」。といわれる。「性格的に猫よりも犬ですね」。「わたしはクロッチのように、ひとりで生きていくとは言えないです」との答え。
クロッチの「受け入れられ力」を貸してほしい!
「クロッチの心意気が好きです」「野良はひとりで生きられる」といいながらも、誰かのために何かをせずにはいられない!『のらのため』という言葉も、自分のためというよりは、自分のようなつらい境遇の人のため、という性格がカッコいい!『世のため、人のため』、これはNGOもいっしょです。」と田柳さん。 最初、目つきが鋭いオイラが受け入れられるか心配したが、子どもたちも、おとなの男の人たちも笑顔になった。そしてオイラを好きになってくれた。「クロッチの『受け入れられる力』を貸して欲しいです!」。「田柳さん、ガッテンだいっ!」
■田柳優子(たやなぎゆうこ)
大学卒業後、企業勤務を経て、学生時代からボランティアをしていたACEで2015年からスタッフとして働き始める。
のら猫クロッチとACEさんとのご縁をつくってくれた成田さんとのツーショット