【追悼】朗読劇を演じてくれた千賀ゆう子さん
2018年9月8日

のら猫クロッチのことをわが子のように可愛がってくれた女優の千賀ゆう子さんが亡くなった。

千賀さんとその俳優の弟子たちが「のら猫クロッチ一味」に扮した朗読劇で交流がはじまりました。2016年秋ののら猫クロッチ展では、インドの子どもが衣装をつくったお気に入りの子と出会いました。生涯現役で千賀さんの舞台から、生き様から、実直であることを教えていただきました。どうもありがとうございました。ご冥福をお祈りいたします。

2018年9月

 


(2017年9月5日号を再掲載)

【のら猫クロッチと目があって9 ★ 千賀ゆう子さん】

 

第9回 千賀ゆう子さん

女優・演出家

その時代の雰囲気とか圧力、そういうものを敏感に感じないと役者とはいえないと思うし、それを表現できるところが役者のおもしろみだと思う

オイラとの出会いから半年たらずで「のら猫クロッチ物語」を、六本木のストライプギャラリー、新宿区多文化共生プラザ、富山県高岡市で上演してくれた千賀さん。役者であり演出家でもある千賀さんは、早稲田小劇場に10年間在籍した後、国内外で実験的な舞台活動を勢力的に続けている。世界各地の演劇祭に招かれ、曾根崎心中からギリシャ悲劇まで数々の企画公演を行ってきた。千賀さん、いったいどうして「のら猫クロッチ物語」を演じようと思ったの?

 

 

動物が好き、ひとりが好きな文学少女

「わたしは猫のまねが上手なの。ニャァオゥ」と千賀さん。いやいや上手なんてもんじゃない、舞台では、声も目つきも爪の先までノラ猫そのものだ。
子どものころは、むしろを持って登った木の上で昼寝をするほどのオテンバだった千賀さんは、高校では飼育部で、ノスリ、ウサギ、伝書バト、熱帯魚などの世話をしながらひとり寝転がって本を読むことが至上の楽しみだった。

 

学生運動と演劇活動、早稲田小劇場、そして「千賀ゆう子企画」へ

当時、演劇がさかんだった早稲田大学に入学した千賀さん、自由舞台(後に早稲田小劇場の母体となる)と演劇研究会(通称 劇研)の二大学生演劇集団から、政治活動に敏感で硬派にみえた劇研を選んだ。黒ずくめの服を身につけた劇団員の中で、ひとり白いワンピースを着ていた千賀さん、お父様に大反対されて家出を決行し、半年間、水商売をしながら友だちの家に半分居候。はじめてののら体験だった。
大学3年生で主役を演じるが、新左翼の作品だった事もあって、むしろ自己批判をせざるを得なくなり学生運動を再開。しかし政治活動にもそのセクト性と色々と裏側をみたりして、自己の甘さを思い知って、断念した。そして、卒業後に観た「AとBとひとりの女」で小野碩(ひろし)という役者に感動した千賀さんは、すぐに自由舞台(早稲田小劇場)に入団したのだ。早稲田小劇場では10年間活動したが、「鈴木忠志を頂点とした権力的な構造の劇団にはいたくない!」と退団を決意。その後、「自分がプロデュースし、自分がやりたいことをやりたい」と「千賀ゆう子企画」を立ち上げた。劇団組織を作るつもりはなかった。基本はひとりでそのつど共にやりたい人を集める。だから劇団に比べると自由度が高い。自由を愛するからこそ相手の自由も尊重する。結果、千賀さんのまわりにはたくさんの人が集まるようになった。

 

役者であること 演出家であること

古事記、平家物語、近松、坂口安吾、ギリシャ悲劇、現代詩……。時空を越えたさまざまな世界を演じ、演出してきた千賀さん。
「その時代の雰囲気とか圧力、そういうものを敏感に感じないと役者とはいえないと思うし、それを表現できるところが役者のおもしろみだと思う」
「自分と人との距離感があるから役者をやっていける」
「わたしには演出のほうが、俯瞰することが向いているの。役者は自分のからだを使い、演出家は人のからだを使い、空間を、音楽を、世界を使い、そして言葉を扱う」
興味があることに関しては貪欲だったので、義太夫、日本舞踊、お花、お茶、狂言、謡、三味線、そして舞踏の世界にも興味をもった。そんなにいろいろ?と驚くオイラに、千賀さんはニヤッとして「結果オーライ!だからね。無駄にはならないの」

 

独立不和で自由。でも、他者がいることがクロッチの魅力

「やさしいとはそうことでしょう? わたしは、「他者」を認知しなければやさしくはなれないと思っています。クロッチのやさしさはそういうものだと思う。自分が弱っている時に助けを受け入れる潔さ、クロッチって最高に格好いいですよ、わたし大好きだもん。のら猫は大変だろうけれど、自分の運命を人のせいにしない。わたしはいつも勇気をもらっています」
「それから、ちょっととがった目つきが大好きですね。クロッチのように生きられたら最高に素敵です。死ぬ時には『ああ、オレはよくやった。よく闘った』と思える人生でありたい。世間には不条理なこと、ひどいことがいっぱいある。そういうものと戦う意志がある。それに、はずかしがりで、照れ屋だし、そこがかわいい。わたし自身もちょっと照れ屋なので気持ちはわかる」千賀さんの言葉にオイラも照れっぱなし、だった。

 

自分を動物に例えるなら

「猫ほどかっこよくないからなあ……。わたし、どこか人恋しいところがあるから猫にはなれない。きつねかたぬきかな。でも大きめの鳥、鷲とかノスリなんかいいなあ。独立心が強くて、でも人なつこい。鳥は大変だけど自由でいられる。自由がなによりですよ」

 

クロッチ、生き抜いてね!

「もっといろんな人に出会って、人の心の中に生き抜いてほしい。生きてなきゃなんにもならないし……。でも人の心の中に生きるということもあるからね」
「人の心の一番深いところに届く出会いというのはなかなかないから」
そう語る千賀さんとの出会いはオイラにも運命的だ。
千賀さん、オイラと一緒に旅がしたいそうだ。
「新潟、仙台でやりたい。関西でもやりたいなあ。それから、金沢、山形も……」
ガッテンだいっ。千賀さん、オイラどこにだっていっしょにいくよ!

 

 


■千賀ゆう子(せんがゆうこ)
役者。演出家。早稲田小劇場に10年在籍。1982年より「千賀ゆう子企画」を主催。古典の語りから前衛演劇まで幅広く舞台活動を国内外に展開している。国際演劇祭に招聘され、アジアからヨーロッパまで世界各地で公演を重ねてきた。国内各地でも「語り」「芝居」の企画公演を勢力的に上演。かたわらで「語り」のワークショップも開催している。

◉千賀ゆう子企画公式サイト http://senga-unit.sakura.ne.jp

(ダウンロードできます)

 


 

 

 

 

「のら猫クロッチ物語」上演光景

 


 

— 千賀さんのライフワーク 坂口安吾 —

坂口安吾に魅せられて
「安吾の魅力をひと言でいえば、『人間とはなにか?』という本質的な問いを、削ぐかたちではなく、膨らましていくかたちで提示してくれること。机上の文学ではないです。少年の思いを一生、持っている人。そして、暖かい人です。『人間が嫌いだ』とは言っているけれど、人間に対する視線がとても暖かい。孤独が深いからこそ人が大事。すごく孤独で、その孤独の深さとみあう『他者』を大事にする。大人です」。
千賀さんが小学生ではじめて読んだ「桜の森の満開の下」、2週間で書き上げた大学の卒論が「坂口安吾 私論」、そして「千賀ゆう子企画」を立ち上げた時にやってみたいと思ったのも安吾だったのだ。岸田理生氏が自ら申し出て書き下ろした脚本、笠井賢一氏の演出によるひとり芝居「桜の森の満開の下」は、
ストライプギャラリーでの初演から、今日まで幾度も演じているライフワークである。

■語り「桜の森の満開の下」
9月16日(土)2:00PM  7:00PM
9月17日(日)2:00PM
第11回有隣館演劇祭 蔵芝居`17
開催期日:2017年9月16日(土)〜10月22日(日)
会場:桐生市有隣館 群馬県桐生市本町2丁目 6-32

【お問い合わせ】
桐生市有隣館  TEL/FAX 0277-46-4144

 

 

 


 

【千賀ゆう子さんの今後の舞台活動】
■千賀ゆう子企画公演「S」シリーズ
千賀ゆう子ソロ「春夏秋冬」
会場:ストライプハウスギャラリー
日時:2017年10月13日(金)14日(土)15日(日)
ご予約お問い合わせ:ストライプハウスギャラリー
TEL: 03-3405-8108