2016年4月5日
クロッチ作品を創る造形作家を紹介するこのコーナー、トップバッターは「ラッキーワイド × のら猫クロッチ展」の芸術監督を務める、山田親広さん!
山田親広(やまだちかひろ)さん。この道25年の大ベテラン。職人としての高度な技術と飽くなきチャレンジ精神を兼ね備えた山田親広さん。展覧会に向けて、子どもから大人までが楽しめるクロッチのお面と、それぞれ素材の異なる5体のクロッチ立体像を制作する。
■方法を試し、素材に挑戦する
「最初、何もない状態からはじめて、フルハンドメイドで完成させる」造形の仕事は、工業製品と真逆の世界だという。「革命的なことでなくていい。日々のちょっとした前進でいいんですよね。それは後々、大きな変化につながるんです」。
造形物を制作するうえで、いろいろな方法を試すのが大好きだという山田さんは、やり方だけではなくさまざまな素材にも挑戦してきた。だから当然、失敗もする。「でもね、失敗すらからたくさん学べるんですよ」とうれしそうだ。
■山田さんの作品のみどころは?
職人の高度な技術と、造形作家として新しいことへの飽くなきチャレンジ精神を兼ね備えた山田さん。「クロッチの作品では、造形屋ならではの多種多様な造りを見て欲しい」と語気を強めた。特にこだわるのは、キャラクターとしての「クロッチらしさ」と素材とのマッチングバランスだという。
「オイラの睨んでいる目が魅力」と語る山田さんは、「美術品」として素材が一目でわかるようなものを創るつもりだ。プラスチックに留まらず、木、石、箔、クリアーレジン、エポキシ樹脂を使用する。
実は、すでにさまざまな素材の「クロッチのお面」が完成している。作品で苦労した点を尋ねると、「アナログの手作業と、デジタルなCAD 両方で制作しているため、業務のスケジュール調整が難しかった」との、意外な答えが帰ってきたんだ。でも、とりわけ苦労したのは、カーボンファイバーのお面。最初は、
表面が星の数ほどの気泡だらけになってしまったらしい。
素材の扱いはもちろんのこと、造形物の制作にはいくつもの工程をふまねばならない。まず原型を造り、それを型取りした後に、成形の作業をし、仕上げになる。そして最後に「調整」をして完成となる、とのこと。この制作過程は、今後、オイラのblog やfacebookで公開していくけれど、11月の展覧会場でも制作過程の動画を上映することになっているよ。
幼いころから、外では遊ばずに家の中で絵を描いたり粘土をいじってばかりいたという山田さん、さまざまな職種を経験した後に、立体看板(店舗の入り口にディスプレイしてある怪獣などのこと)の仕事を手がけたことが、「立体をやっていこう!」と決心する大きな転機となった。その会社では、山田さんは、入社したての若年にもかかわらず、高い技術力と豊富な経験をかわれて、いきなり30メートルもある恐竜の滑り台の現場監督をまかされたという。その後に、スチロールで立体を作っている会社を捜していて就職したのがラッキーワイドだ。
■全ては「伝え方」から始まる
山田さんにとって仕事とは、「世の中と共存し生きること」。ラッキーワイドには、30人以上もの幅広い年代のスタッフがいる。常に、限られた時間と予算の中で高い完成度を求められる状況下では、たったひとつの小さな伝達ミスが、取り返しのつかない失敗につながる、という苦い体験を何度もしてきた山田さん。注文主に納品にいったけれど、「イメージと違う」といわれ、そのまま作品を工場に運び帰り、徹夜で直したことも数えきれないそう……。無事に納品するまでは家には帰れないんだ。大変だね。
「全ては『伝え方』から始まり、『伝え方』次第で相手の行動が変わる」。大勢のスタッフに指示をするポジションの山田さん。「近頃の若い人たちは計画性があり協調性もある。だから集団行動に対して強い。 年前はもっと作家のような人が多かった」とふり返る。そんな山田さん自身は、たくさんの「無謀なこと」をしてきた。四半世紀にわたって「造形」と格闘してきた作家であり、この業界の厳しさを知りつくした職人の山田さん、後輩たちをやさしく見守る先輩の顔ものぞかせてもらった。
■自分を動物に例えたら?
最後に、自分を動物に例えるなら? という質問をしてみた。すると、「フクロウかミミズク!」とスタッフたちが口をそろえたんだって。
今は、お面の制作は終了し、素材のそれぞれ異なるオイラの立体像にとりかかっている。この仕事をしていなかったら、料理人になっていたという山田さん、一筋縄ではいかない素材をどのように調理してくれるんだろう…… 本当に楽しみだよ!
(編集:KIMIKO TSUTSUI)
■山田親広(やまだちかひろ)
造形作家。株式会社ラッキーワイドの管理職、技術主任として30名以上の若手造形作家たちをまとめている。