ラッキーワイドの造形作家たち5 ★ 諸橋司さん
2016年8月18日

【クロッチ作品を創るラッキーワイドの造形作家たち。5】

諸橋司さん

この迫力! 力強さ!「ねぷた」クロッチの登場だいっ!

「魅力的な表情」と「格好よく見えるポーズ」にこだわった。「光るクロッチを作りたい」と諸橋司(もろはしつかさ)さんが考えたのは「ねぷた」。クロッチ展示作品の中では今回、最大となる。

 

 

これこそ思い描いていた仕事!
「この仕事をしていなかったら大工さんか内装屋さんになっていましたね」。そう語るのは諸橋司さん。小さいころから、とにかく手を動かすことが好きだった。まだ「造形屋」という業種を知らなかった学生時代、建築を専攻しながら「からだを動かせて、ものをつくれる」仕事を探していた。映画やテレビの美術制作会社をのぞいたりもしたが、ネットで調べて門をたたいたラッキーワイドで「造形業」にめぐりあった。「これがやりたかった!」「これこそ、自分が心に思い描いていた仕事だ!」こうして今日まで12年間、天職を探し当てた感慨を胸にきざみ、仕事に取り組んでいる。

光るクロッチを作りたい!
そんな諸橋さんが作ってくれるのは、「ねぷたクロッチ」! そう、青森県の夏祭り「ねぷた」だ。歌舞伎風の人型や、武者絵が描かれた扇形山車燈籠を引く大勢の人たちが街を練り歩く、勇猛果敢で幻想的な伝統祭りだ。
ではなぜ「ねぷた」を作ろうと思ったのか? 諸橋さんはまず、照明のようなものを作ろうと考えた。「光る」「光らせる」そんなことを考えていくうちに、かつて見た青森の「ねぷた」を思い出したのだ。「そうだ! クロッチのねぷたがあったらおもしろい!」こうして「ねぷた」クロッチの制作がはじまった。
まず、諸橋さんが作成するのはスチロールの原形だ。粘土かスチロールでポーズを決めてしまい、そこから図面をおこして形をおこす。原寸より少し小さく作る。完成した原形は、青森在住のねぷたの職人さんの手によって、細い鉄筋で骨組みされ和紙が貼られる。ここで再び、クロッチは諸橋さんの手元に戻される。まず、和紙には滲み止めとしてクリアをエアガンで吹き付ける。それから水性塗料で着彩していくという。なんと手のこんだ工程だろうか。

 

 

諸橋さんの作品の見どころは?
さて、ねぷたクロッチのお題は、ご存知、歌舞伎の「助六」だ。かつてこんなに粋なオイラがいたろうか。 作品の見どころを尋ねると、「迫力」そして「力強さ」との答えが返ってきた。高さが1m近くもあり、今回の展示作品の中では最大となる。とりわけ諸橋さんがこだわったのは「魅力的な表情」と「格好よく見えるポーズ」だ。手をつきだし、重心を低くして「決まっている!」感じを出すのは難しかったそう。「全体的なバランス」にも苦労したという。

 

 

「立体」は凄い!
ちかごろ、諸橋さんは立体造形物の力の凄さをあらためて感じているという。テーマパークやショッピングモールで、立体のキャラクターに大喜びをするわが子の姿を見るにつけ、「立体」ならではの圧倒的な存在感と訴求力を実感するそうだ。現場に設置した作品を、来場者が楽しそうに眺める姿を見るにつけ、「本当によかったなあ」と思う。
クリスマス、某テーマパークに、自分が手がけた造形物をわが子といっしょに見に行ったことがある。「パパが作ったもの」を見たことが、子どもには忘れがたい思い出となった。それからは、「今はなにを作っているの?」とちょくちょく尋ねられるそうだ。
「まず仕事があり、健康でその仕事ができる」。このことをあたりまえと思わず、感謝する気持ちを忘れたくないという。連日、夜遅くまでハードな仕事を続けた時も、体力的にきついなと思いはしてもつらくはないという。
近年、切削機や3Dプリンターなどの最新設備が社内に導入された。細かいディテールに関しては、3Dプリンターでサンプルを作る。機械のほうが細かさや正確さは優れている。とはいえ、まずは元となるデータを人の手で作らねばならず、そのデータ作り自体が大変な作業だ。
そして、今もなお、先輩方が培ってきた手仕事のノウハウはすべての基になっている。諸橋さんは、先輩たちから受け継いだ手法と技術を、今後、後輩たちにどうやって伝えていこうか。と考えている。

 

 

自分を動物に例えたら?
最後に、自分を動物に例えると? との問いには、「そんなこと考えたことがないなあ」。としきりに困った顔。しばらくして、「う~ん、熊、ですかね」。理由は、熊のイメージが、「やさしい」「力持ち」という点で「親としてそういう存在になれればいいな、という気持ちからです」。と微笑んでくれた。

 


 


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