ラッキーワイドの造形作家たち3 ★ 木下勇治さん
2016年5月25日

いちばん目を引くクロッチの看板

 1.8メートル四方の大きなキャンバスいっぱいに、オイラの顔を描いてくれたのは木下勇治さん。展覧会では、表通りに面したストライプハウスギャラリーのウインドウから真っ先に目に入る「看板」は、来場者や通行人へのアイキャッチという重要な役割を担うアイコンだ。しかも、この絵は他のアーティストが手がけるトリックアートでも一役買うからね。

 作品では、「目力の強さと口もとのクロッチらしさを見てほしい」と語る木下さん、顔の輪郭線にはこだわった。人にはなつかない、のら猫の矜持がモチーフとしての魅力だという。

 子どものころから絵が大好きで、マンガ家のアシスタントを務めた経験を持つ木下さんだけど、はじめて描く大きな絵の構図や色合いのバランスには苦労したという。単純なオイラの顔が、インパクトがありながらも趣き深い「肖像画」に仕上がった。アクリル絵の具で描いた絵を囲むお手製の木枠は、江戸っ子クロッチの「和」の雰囲気を出すために、自ら黒く染めあげた。


「仕事は生きがい」という木下さんは感覚を磨くために作家の個展を見に行く。仕事は常に時間との戦いで、すでに道具の発注、材料の準備段階から経験値がものをいう。先輩方の「凄い!」仕事ぶりにあこがれる木下さんは入社5年目。ひとつの物件を最初から最後までまかされるようになった。そこでは、後輩たちの指導をしながら物件を仕上げていく。チームワークを大切にしながら、将来は後輩たちにちゃんと仕事を教えられる先輩になりたいと語る。


「自分では、引っ込み思案なところがあるから親方には向いていないかも……」と思っていたが、ある時、先輩から「木下は木下らしい親方をめざせ」と言われたことを心にとめて仕事に向き合う毎日だ。


最後に、自分を動物に例えると?と尋ねてみた。


いつも白と黒の洋服を着ているので、友人からペンギンと言われる木下さんだが、「自分では猫に似ている」と言う。気ままに時間に流されずに生きる猫。静かにさりげなく、いつのまにか周囲を和やかな気で包んでいく。そんな猫だ、と感じたよ。